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不安発作の症例に見る、フロイトとアドラーの比較@ユング心理学入門

ユング心理学入門/河合隼雄著 第2章「フロイトとアドラー」(P.27~36)を読む。

症例:

ユングによる、不安発作に悩む若い夫人の例

夜毎悪夢に襲わる度に、夫に見捨てられるのではないかと不安に駆られ、ついには神経性の喘息も発生し、不安発作は昼にまで生じる。
最初の不安夢について尋ねると、「恐ろしいライオンや虎、悪人などが出てきた。」という。
これに対して患者は、
1. 結婚前に知り合ったイタリア人男性の「恐ろしい目つき」
2. 父が亡くなる少し前に売春婦に見せた「目つき」。
これらの目つきが、夢の中の恐ろしい「獣の目」と同じだったことを思い出す。
売春婦との件以来、患者と父親との関係は一変し、愛と憎しみが交錯し始める。
そして、父親の突然の訃報を受けた時、患者は抑え難い悲しみに捕らわれたかと思うと、次の瞬間ヒステリックに笑い出す。
その後不安発作が治まると、患者は急にイタリア人と別れ他の男性と結婚する。そして、夫が別の女性に優しい関心を寄せていることを知った時、再び不安発作に襲われる。
また、患者の両親の夫婦関係は非常に疎遠で、母親よりも自分の方が余程よく父親を理解していると感じていた。彼女は父親の明らかなお気に入りだった。(P.27~29)

フロイトの「性の理論」による分析:

この症例は、フロイトの性の理論によって簡単に説明がつく。
不安発作の原因は、患者が「父親から未だ自立できていない」点にある。したがって父親が他の女性に関心を示した時にショックを受け、夫が他の女性に関心を示したことで、かつての父親の記憶が呼び戻され、不安発作が再発する。
このようにフロイトの「性の理論」の目的は、神経症の症状(不安発作)の背後にある、患者の近親相姦的な心のメカニズムを明らかにすることにある。(P.29)

アドラーの「権力への意志」理論による分析:

しかし、この同じ症例をフロイトの理論ではなく、全く違った見方によって分析することもできる。
アドラーは、人間を動かす基本的動因として権力への意志を考えた。アドラーにとっては「愛」も「性」も、権力への意志を遂行するための手段に過ぎない。
このようなアドラーの考えは、愛情の価値を踏みにじるような印象をすら与える。しかし、「心の現象」として見る限り、このような心の働きが人間の中に存在することを、ともかくも認めねばならない。
ある人が一面的な徳行を積み重ねようとする時、その暗い半面は無意識の中に積み重ねられていく。それは無意識の中で強力となり、突如として表面(意識の世界)に現れる。(P.30~31)

このことは「ワイマール憲法」という、当時もっとも民主的な憲法を持っていたドイツからナチスが生まれたことを連想させます。今、日本でも同じようなことが起ころうとしています(憲法改正問題)。
それにしても、一個人の行動で対日感情が悪化するなんて(靖国問題)、馬鹿げていると言うか何と言うか…
もっとも、「立場や影響力を承知の上で」あそこまで意固地になるのには、ここで取り上げられているような力が働いているような気もします(もちろん、個人的なコンプレックスの可能性も捨て切れません)。

この考えからすると、上述の症例もフロイトとは相当異なった分析がなされる。
患者の父親への優しい行動は、母親との権力闘争に勝つための手段に過ぎない。
また、不安発作をはじめとした神経症ほど他人を支配する良い方法はない。多くの人々から同情が寄せられ、すべての人が「自分のために」行動するのが見て取れる。
父親が死亡してから不安発作が治まったのは、(支配する対象が死んでしまったため)意味を持たなくなったからである。(P.30~32)

フロイトとアドラーの比較:

フロイトは神経症の説明を過去の原因に求め、患者に症状について過去に思い出すことや、症状が初めて起こった時のことを尋ねた。
これに対して、アドラーは未来の目的で神経症を説明し、「症状がもしなかったら、何をしたいと思いますか?」と、未来に対する患者の態度を尋ねた。そして、「本当にしたいことを避けるために神経症に逃げ込んでいる」と分析した。
患者が現実を支配できぬ時に、せめて空想の中だけでも権力を握ろうとして、神経症を設定していることに気づかせることが、アドラーの治療法であった。(P.32~33)

空想の中に逃げ込むのは、エニアグラムのタイプ4タイプ5の得意とするところです(特にタイプ4)。アドラー流の治療法はタイプ4、タイプ5の性格が強い人に特に有効と言えるかもしれません。
もっとも、誰しもタイプ4的部分を持っているわけですから、あくまでケースバイケースですが「見立て」にはなると思います。

ユングの考察:

上述のように、一つの現象に対してフロイトとアドラーによる二つの異なる分析が可能なことは、一体どういうことであろうか?
これに対してユングは人間の基本的態度(ものの見方・態度)の相違を考えざるを得なかった。このことが人間のタイプの考えへと発展してゆく。(P.35)

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