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フロイトとユングの夢分析の無意識の心理への洞察・治療効果の違い 目次:

夢分析を重視したフロイトとユング
フロイトの夢分析
ユングの夢分析
フロイトとユングの自由連想法による夢分析の違い
・フロイトの自由連想法による夢分析での連想
・ユングの自由連想法による夢分析での連想
夢の意味への仮説により異なる夢分析の技法
・ユングの夢理論における夢の意味と夢分析の技法
・間主観性心理学の夢理論における夢の意味と夢分析の技法
夢理論・夢分析の違いによる無意識の心理の洞察効果の違い
・ユング心理学の夢理論・夢分析がもたらす無意識の心理の洞察効果
・間主観性心理学の夢理論・夢分析がもたらす無意識の心理の洞察効果
夢見手(クライエント)のニーズに即した夢分析方法の選択
・心理カウンセリングの枠組みの中で夢分析が行われる場合
・申し込みの段階から夢分析と明示されている場合
・夢見手が夢占いを期待している場合
・夢分析の中で悩みや精神疾患的な症状が語られる場合

夢分析を重視したフロイトとユング:

フロイトは『夢判断』で「夢は無意識への王道」と述べたように、夢の持つ無意識の心理を明らかにする機能を非常に重視し、またその弟子であったユングもフロイトと同様に夢を重視し、そのため両者は心理カウンセリングの中で夢分析を積極的に行いました。
しかし両者の夢分析の仕方は大きく異なっていたようです。

フロイトの夢分析:

フロイトは自由連想法という心理療法を用いて心理カウンセリングを行いましたが、夢分析にも自由連想法をそのまま適用しました。
自由連想法は頭に浮かんだことを(文字通りの意味で)すべて言葉にしていく心理療法のため、自由連想法により夢分析を行いますと、しばしば連想の内容が夢からどんどん離れていってしまい、このことがユングから「この方法では夢の意味が明らかにされない」と批判されることになりました。

ユングの夢分析:

上述のフロイト批判に見られるようにユングは夢の意味に徹底的にこだわり、そのためフロイトの自由連想法を修正して夢分析に用いました。
また最終的には夢の意味を夢見手の個人的無意識のみならず、人類に共通した無意識とされる集合的無意識(普遍的無意識)にまで拡大して解釈しました。

フロイトとユングの自由連想法による夢分析の違い:

フロイトとユングの夢分析における自由連想法の違いは次のように表すことができます。

フロイトの自由連想法による夢分析での連想

夢(A)→A2→B→C
フロイトの行った自由連想法による夢分析では、最初の連想A2は夢から連想したものですから夢と直接関連がありますが、その次の連想Bは連想A2から連想されたものであるため夢との直接的なつながりが失われてしまっています。
そのため、このような自由連想法を続ければ続けるほど、夢の内容からはどんどん離れていくことになります。

ユングの自由連想法による夢分析での連想

夢(A)→A2→A3→A4
一方のユングの行った自由連想法による夢分析では、フロイトの方法の欠点?を改良するため、連想内容を夢からの連想に限定しました。そのためユングの用いた自由連想法による夢分析では、夢から直接連想された内容が無数に並ぶことになります。

夢の意味への仮説により異なる夢分析の技法:

このように述べますと夢の意味からどんどん離れていってしまうフロイト流の夢分析よりもユング流の夢分析の方が優れているように思われますし、以前の私もそう確信していました。
しかしその後、クライエントさんの夢分析や私自身の夢分析*で得られた知見から、夢の意味への考えに変化が生じ、その結果ユングよりもむしろフロイト流の自由連想法による夢分析を好んで用いるようになりました。
したがって夢分析の技法は、夢の意味への仮説(夢理論)により大きく異なってくるものと思われます。
ただし私自身、フロイトの夢理論をあまり重視しておらず勉強不足のため、ここではユングの夢理論と最近私が重視している間主観性心理学の夢理論との対比で述べさせていただきます。
*関連ブログ:抑うつ型自己愛性人格の心理カウンセラーの自己分析・自己治療の記録内の「自由連想法による夢分析」のブログ

ユングの夢理論における夢の意味と夢分析の技法

ユングは意識的に感じられる自己(これが「自分」という感覚)に対して、常に無意識的に作用し意識的に感じられる自己を自己成長(ユング心理学でいう個性化)へと導くセルフと呼ばれる第二人格のような存在を仮定しました。
ユングによれば意識的に感じられる自己は自己中心的・刹那的であるため物事の本質を見極めることが難しく、一方のセルフは神のように常に正しく物事の本質を見抜く力を持つ万能的な存在とされています。
そして夢はセルフが自己を正しい方向へと導くためのメッセージを伝えるチャンネルの一つと仮定されています。ユング心理学において「夢の自己治癒力」「夢の補償機能」といったことが言われるのはこのためです。
このように夢はセルフから自己への大切なメッセージを担っているわけですから、ユングが夢分析において夢の内容からできるだけ離れないようにと努め、またそうではないフロイトを批判したのは当然と思われます。

間主観性心理学の夢理論における夢の意味と夢分析の技法

次に間主観性心理学における夢理論と夢分析について触れさせていただきます。といっても間主観性心理学に夢理論と呼べるようなものがあるのかどうかは怪しいものです。
といいますのも間主観性心理学において夢は無意識の心理を表すとしても、それは日中に生じる無意識的な空想と大差ないものとされ、したがってユング心理学におけるような特別な意味や力を与えられているものではありません。
このため心理カウンセリングにおける夢分析の重要性もユング心理学に比べて、いえともすればフロイトの精神分析理論に比べても相対的に低くなります。
具体的には夢見手であるクライエントさんさんが夢について語ればもちろん夢分析を行いますが、それ以外では心理カウンセラーがその場で必要と認めたり個人的に夢分析を重視している場合を除いては、心理カウンセラーの方から「最近夢を見ましたか?」などと質問することはないものと思われます。
また夢を無意識の心理へと到る特別重要な存在とは仮定していないため、自由連想法を夢分析に用いるとしても、それはフロイト流の自由連想法に近いものとなります。
さらに間主観性心理学において夢は夢は無意識の人格(性格)タイプを映す鏡-夢分析夢は自己対象・対象関係を映す鏡-ゲシュタルト療法による夢分析などでも触れましたように(内的)対象関係*や性格(人格タイプ)などの無意識的かつ主観的な精神世界を表すと考えられていますが、これらはすべて個人的無意識の心理であり、ユング心理学における集合的無意識(普遍的無意識)のように没個人的な無意識の存在を想定することもありません。
**現実の対人関係のやり取りから感じられた主観的な印象に基づく、いわば心の中の対人関係的な思考を指し、たとえば「Aさんは冷たい人、Bさんは優しい人」などの印象や「Cさんならきっとこうするに違いない」などの推測がこれにあたります。

夢理論・夢分析の違いによる無意識の心理の洞察効果の違い:

続いてユング心理学・(フロイト流の自由連想法も含めた)間主観性心理学それぞれの夢理論および夢分析の技法が、心理カウンセリングの治療効果に及ぼす影響について考察します。
まずは夢理論・夢分析の違いによる無意識の心理の洞察効果の違いです。

ユング心理学の夢理論・夢分析がもたらす無意識の心理の洞察効果

私が夢を用いた心理カウンセリングのトレーニングで最初に教わったのが、ユング心理学の夢理論に基づいた自由連想法による夢分析でした。
具体的には夢の内容の中から気になる象徴をいくつか選び出し、選んだ象徴それぞれから自由連想法で、ただしユング流にその象徴からのみ連想される内容を書き出していき、最後に抽出されたすべての連想内容を俯瞰して夢の意味を見出すという方法でした。
このユング心理学流の自由連想法による夢分析では連想方法に制限が加えられているため、おのずと連想される内容の幅にも限界があります。もちろん個人差はありますが、夢の一つの象徴から連想される数はせいぜい数個から十数個です。
またユング心理学流の夢分析ではその理論背景から、夢見手・心理カウンセラー双方の意識が夢の意味の探求に向けられがちになるため、夢見手の個人的な無意識の心理の探求への動機が削がれる可能性があります。
その典型的な例は集合的無意識(普遍的無意識)の探求、つまり元型の解釈のみが行われる夢分析です。
このような夢分析は知的好奇心を満たすことはできても夢見手の個人的な無意識の心理は何一つ明らかにされず、したがって治療的な効果はほとんど望めません
もっともこのような弊害はユング心理学の治療理論に照らしてみますと、必ずしも弊害とは言えないのかもしれません。
ユングの著書やユング研究家の著書を読む限り、晩年のユングは治療モデルを宗教に求めていたようです。つまり特定の宗教への宗教心が育まれ、その宗教のコミュニティー(宗教団体)に帰依することでクライエントさんの魂が癒されると考えていたように思えます。
なお晩年のユングのこのようにラディカルな治療思想は、多くの心理療法家から宗教家扱いされる原因ともなったようです。
ただしこれはセルフという、神にも似た超越的な存在の力を最重要視したユングの宿命とも思えます。

間主観性心理学の夢理論・夢分析がもたらす無意識の心理の洞察効果

次に間主観性心理学の夢理論・夢分析がもたらす無意識の心理の洞察効果についての考察です。
既に述べましたように間主観性心理学的な夢分析で用いられる自由連想法はフロイト流に、頭に思い浮かんだことを一切の制約を加えることなく言語化していく方法です。
そのため(夢見手が意識的・無意識的に制限を加えない限りは)個人的な無意識の心理が最大限に引き出される効果が期待できます。
ただしフロイト流の自由連想法による夢分析では連想内容が夢の内容からかけ離れていく恐れがありますが、この点については間主観性心理学では夢を普段の無意識的な空想と同等に考え特別視していないため特に問題とはされません。

夢見手(クライエント)のニーズに即した夢分析方法の選択:

最後に夢理論やそこから導き出される夢分析の方法が治療効果全体に及ぼす影響について考察しますが、この点については『セラピストと患者のための実践的精神分析入門/オーウェン・レニック』でも指摘されていますように、今日の心理療法には経済性(効率性)が厳しく求められているため、治療効果はクライエントさんのニーズに照らして評価されねばなりません。
したがって夢分析の治療効果そのものが、夢見手であるクライエントさんのニーズによって大きく変わってくるものと考えられます。
ここでは夢見手のニーズをいくつかに分けて考察してみたいと思います。

心理カウンセリングの枠組みの中で夢分析が行われる場合

まずクライエントさんと心理カウンセリングを行う中で夢が話題に上ったケースです。
この場合クライエントさんのニーズは、主訴として述べられる何らかの苦痛な症状の軽減であるはずです。
そのため夢分析では先に例でいえばフロイト流の自由連想法による個人的無意識の探求や、場合によってはゲシュタルト療法のようなイメージ療法を用いての対人関係やそこから生じる内的な対象関係の探求などが有効と考えられます。
※ここでは考察の対象を心理療法に限定し、薬物療法などその他の治療法については考察の対象外とさせていただきます。

申し込みの段階から夢分析と明示されている場合

次に申し込みの段階から夢分析と明示されているケースについて考察します。
この場合クライエントさんのニーズは、夢の意味を知ることである可能性が高いと考えられますので、ユング心理学流の自由連想法を用いる方がクライエントさんのニーズに合致するはずです。
ただし夢分析を申し込まれても、なかには後述する夢占いを期待していたり、あるいは夢からの連想内容が心理カウンセリングで話されるような内容(たとえば精神的苦痛)であった場合には注意が必要です。
この場合はクライエントさんの期待を確認する必要があります。

夢見手が夢占いを期待している場合

夢分析を心理療法の一つとして心理カウンセリングに取り入れている心理カウンセラーの方にとって、夢分析夢占いとはまったくの別物であり二つを混同することなど考えられないかもしれませんが、一般的にはこれらの境界は非常に曖昧であり、実際夢分析と称して夢占いの内容を掲載しているサイトなども多数存在しています。
このような夢分析の一般的なイメージを考慮しますと、夢分析の方法(技法)の選択以前に、あらかじめ夢見手であるクライエントさんのニーズを確認した方が無難であると考えられます。

夢分析の中で悩みや精神疾患的な症状が語られる場合

たとえ夢分析で申し込みがあったとしても、夢分析を始めるとすぐに話の内容が悩みや、なかには精神疾患の症状と思われるような場合が、実は夢分析の過半数を占めています。
この場合、心理カウンセラーとしてはつい悩みや精神疾患的な症状の方に共感して関心を寄せがちとなり、勢い枠組み自体が「クライエントさんの許可を得ることなく」夢分析から心理カウンセリングへと移行してしまいかねません。
私自身、このことが原因と推測される失敗、すなわち(非治療的な意味での)夢分析の中断を幾度となく経験してきました。
このような失敗を未然に防ぐ方法は、やはりクライエントさんのニーズの確認に尽きると思われます。
たとえば夢分析に心理カウンセリングで扱うような内容が出てきた際、クライエントさんに「そのお悩みと夢の内容とは何か関係があると思われますか?」とお尋ねし、「ある」との答えが返ってくればそのまま継続し、反対に「ない」あるいは「よく分からない」との答えであれば、今一度クライエントさんのニーズを確認する、などの対応が考えられます。
しかしこのような対応策が取れるようになるためには、日頃の自己分析により自らの無意識的な心理についての洞察を深めるなどの自己研鑽が欠かせません。
私の夢分析の失敗のケースには、ほぼ例外なく自己愛の病理による逆転移が関係していました。そのように自己愛的な欲求(自己対象欲求)に突き動かされたときの私は、自分の考えや治療方針がクライエントさんの役に立つはずとの確信を抱き、したがってクライエントさんのニーズを確認する必要性を感じることさえできませんでした…
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